『坂の上の雲』と『プロジェクトX』

ccg2009-11-29

 批判の多い、司馬遼太郎史観は、明治はいいけど昭和はだめ、という歴史観です。判りやすい考え方としては、日露戦争と第二次大戦を比べてみることですが、特徴的なことは、日露戦争はモダンな戦争だったのに対し、第二次大戦は、ロマンティックな戦いだったということです。日露戦争の時代を扱った 『坂の上の雲』は、壮大な歴史「ロマン」小説です。でもそれは、たとえばNHKの『プロジェクトX』に登場する男達に、ロマンを感じるという類の「ロマンティシズム」なのであって、第二次大戦のような、「デカダンス」的ロマンティシイズムとはぜんぜん違うものです。司馬遼太郎が、「明治はいいけど昭和はだめ」と断じる理由はそういうところにあると思います。

 日露戦と第二次大戦の決定的な差は、命の「重さ」に対する感性の差だといえると思います。これは、「司馬遼太郎史観」を議論するとき、実は一番重要な概念ではないかと思っているのですが、本当の「ロマン」は、緻密な戦略と戦術、つまり「モダン」に戦ったその先に感じられる感性です。そう考えると、第二次大戦の戦い方は、そういう意味でのロマンではなく、「デカダンス(退廃」的感性が働いたものだと思います。必死になて、国民と国家が「死なないため」には、どうしたらいいかということを「モダン」に考えた時代が、明治であり、それが希薄化してしまったのが昭和の時代だと司馬遼太郎は感じたのではないかと思います。

 「司馬遼太郎史観」の正当性は、今に至っても『坂の上の雲』が読まれ続け、異例のドラマになったりすることだけで証明されていると思います。なぜなら、国民の多くが今、「必死になて、国民と国家が「死なないため」には、どうしたらいいかということを「モダン」に考えた時代」ではくなっていると感じていることが、そうさせていると思うからです。【M】