●現代人の「脳」─二つの事故から

昨日、ちょっと考えさせられる二つの事故があった。 一つは、自然界に関わる事故で、もう一つはハイテク事故。 
 一度でも魚釣りの経験がある人なら知っていると思うが、魚が釣り針から逃れようとする力は凄い。 「おっ!デカイのがかかった!」 と思って手繰り寄せてみると、「あれっ」 と思うほど小さかったりする。人間だって、トラックの下敷きになったわが子を救おうとした母親が一人でトラックをひっくり返してしまったという話があるぐらいだから、火事場の馬鹿力というものは凄いのだ。
 浅瀬に迷い込んだ、18メートルのマッコウクジラに、ロープをかけて引っ張ろうと、誰かが言い出したとき、漁師や消防隊員や、海上保安庁の役人までがいながら、誰も危険だとは思わなかったのはなぜか? 結局、身の危険を察知した巨大鯨の尾びれに弾き飛ばされて、漁師が一人死んでしまった。

 そしてもう一つが、ハイテク航空機の胴体着陸事故で、 こちらは幸いひとりのけが人も出なかった。 しかし、ニュースの乗客たちのインタビューを聞いていて思ったのだが、大惨事の可能性さえある航空機の事故でありながら、当事者の機長をはじめ、乗客達があそこまで沈着冷静でいられた理由はんなのだろうか? 航空専門家もシロートのタレントも、テレビのコメンテータ達は、機長がちゃんと説明責任をはたしたことが大きいと言っていたが、僕はそれだけではないと思う。 結論から言ってしまえば、現代人の脳は、「死」を、臨場感のあるものとして捉えることができなくなっているのだと思う。 炎につつまれて焼け死ぬ、という映像は頭に浮かぶのだが、それがどうしても現実の自分の姿と結びつかないのだ。 それは、自然界の巨大なクジラが実際に目の前に姿を現したにも関わらず、現代人の脳では、情報によって植えつけられた、「クジラは、おとなしく、かしこい人類の仲間」、 というイメージの方が、勝ってしまうのと同じ構造なのだ。【M】