「Air on the Steelpan」

もう遅いですが、これから始まるブラジル戦に敗れた時に、落ち込んだこころを癒してくれるぜったいお勧めのCDを先日見つけました。スチールドラムだけでサティーとバッハの小品を演奏した「Air on the Steelpan」。あっけらかんとしてちょっとくぐもった感じの、それから音程もちょっと間抜けにずれているスチールドラムのね色を聴いていると、昔の、ちょっとセピア色になりかけた写真を眺めているような、不思議な気分にさせてくれます。
 
 例によって分析したくなってしまいますが、「同じ素朴系の打楽器でも、木琴やサヌカイトのような自然の素材ではなく、人工的に鋳造されたただのスチールの奏でる音は、アフリカのかつての土着のプレモダンな生活からも離れてしまったけれど、かといってモダンな近代社会のなかで生きていけるわけでもないという、浮遊した、不安な感情を呼び起こすと同時に、独特の間の抜けたような音色が、奇妙な「おかしみ」と、不遇な生い立ちの、悲しみとを聴く人に感じさせるのだと思う。」
 昔、竹内好が、「日本人はアジア人でもヨーロッパ人でもない」と言ったそうですが、おなじような境遇なんだと思います。

 ¥2100でビクターから出ています。ー[M]