モダニズムの「理念」

モダニズム、つまり合理主義の先端にやってくる風景には独特の美しさがある。しかしそれは、世界に共通な風景でもあるのだ。この写真はどこの風景なのか。日本それともヨーロッパそれともアメリカ? それにしても、そのことがどうして美しいと感じられるのか。 
 過去、一つの地域に、その地域特有の素材を使った建物がおりなす風景は、情緒にあふれ、人々の記憶にも刻まれたものになる。 それはしかし、甘いノスタルジーを感じさせるものであるのと同時に、共同幻想に拘束されつつそこに住んだ人々の精神を、強く規制するものでもあった。 歴史とはそういう二面性を持つものだ。
 しかしモダニズムの理念によって作られる風景は、そこに住む人々の記憶を曖昧なものにするだろう。その記憶が、いつのものだったのか、どこの場所だったのか。その風景は、いつも同じものなのだ。 しかもそのような風景は、モダニズムの理念にしたがう限り、時代が変化し、建て替えが繰り返されても、そこにはもう一度同じ風景が作られるのだ。
 われわれは、もうどこにも移動する必要が無い。 甘いノスタルジーは、旅行によって得られればいいのであって、共同幻想の煩わしい記憶に悩まされることもないのだ。【M】