チープ・モダン

来店した客に対して、「お帰りなさいませ」と声を掛けるのは、アキバで流行の「メイド喫茶」ばかりではない。ある本によれば、なんとあの「レクサス」ディーラーでもお帰りなさいと言っているらしいのだ。 レクサスはアメリカで大成功して昨年夏、日本でもデビューを果たしたのだが、思惑ははずれで惨敗の様相を呈している。その、ある本とは、山本哲士(ちょっと懐かしい)という評論家の書いた『レクサス惨敗』。 著者によれば、トヨタ、「サービス」と「ホスピタリティ」との違いを全く認識していなかったという。「サービス」とは、それがどこまで進化しても、ユーザーがそれに合わせなければならないのに対し、「ホスピタリティ」とは、個々のユーザーに対応した、個別のサービスのことだ。高級車というものは、個人のライフスタイルそのものをグレードアップするものでなければならず、メーカー主体の「サービス」という概念が抜けない限り、「レクサス」の復活はないと言っている。
 アメリカでは客に対する個別対応という「ホスピタリティ戦略」が大成功したようで、日本でもそれをそのまま移行したつもりが、「お帰りなさいませ」という表現になったらしい。しかし実際のサービス面では、従来の「いつかはクラウン」戦略となんら変わりはなく、結局、ベンツ、BMWに大きく水をあけられてしまった。
 しかし、「ああ、なるほど」と思う反面、それだけじゃないとも思う。 日本人にとって、ホスピタリティなんていうのは、けっこう煩わしいものなのではないだろうか。行き付けのスナックやバーじゃあるまいし、知らない女からいきなり「お帰りなさい」なんて言われても、ただ気まずい思いをするだけだろうと思うし、それに、高級なライフスタイルといっても、ベンツがユニクロの駐車場に止まっているような日本では、既製にあてがわれる「高級」さで充分だろう。
 別に自慢するつもりはないが、僕は、レクサスは絶対に売れないと思っていた。それは単純に、見た目が「チープ」だからだ(乗ったことがないので性能は知らない)。高級感ということで言えば、トヨタの高級セダンのベストデザインは「セルシオ」だと思っているが、レクサス」はどの車種も、遠く及ばない。 それに、今までのトヨタのイメージを書き替えるようなデザインコンセプトも全く感じられず、例えば、値段は半額でも、モダンデザインを売りとした日産の「ティアナ」の方が、よっぽどいい(ちなみにアメリカで売れたレクサスはセルシオのことだ)。
 それと、あのディーラーの店舗デザイン。デザインコンセプトは、モダンではなく、明らかな「チープ・モダン」だろう。要するに、安い建材で、どうやったら高級感が出せるかということしか考えていなくて、重厚感も高級感もなく、まったく「ホスピタリティ」って何?って感じだ(ロハス系が200万円台で買うティアナにはぴったりかもしれない)。
 日本でも早く、「ホスピタリティ」を基本コンセプトとした高級な商品が売れるようななればいいと思うが、それはおそらく「下流社会」が定着して、本当の金持ちが出現するまで待たねばならないだろう。【M】